横浜地方裁判所 昭和44年(行ウ)3号 判決 1975年2月25日
川崎市中原区木月三八〇番地
原告
鈴木静子こと 金玉任
右訴訟代理人弁護士
増田彦一
同
石井正春
同市溝口四〇六番地
被告
川崎北税務署長
原巌
右指定代理人
角張昭治郎
同
坂田孝志
同
丸山喜美雄
同
石井寛忠
同
磯部喜久男
同
森脇勝
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一、当事者の求めた裁判
一、原告
(一) 被告が昭和四一年一二月二六日付でなした原告の昭和三七年分所得税の総所得金額を金五八四万六、九九四円と更正した処分のうち、金一四七万五、〇〇〇円をこえる部分はこれを取消す。
(二) 訴訟費用は被告の負担とする。
二、被告
主文同旨
第二、当事者の主張
一、原告主張の請求原因
(一) 原告は昭和三七年分所得税について、所得金額を金一五七万五、〇〇〇円(但、譲渡所得)と確定申告したところ、被告から昭和四一年一二月二六日付でこれを金五八四万六、九九四円とする更正処分を受けたので、これを不服として、昭和四二年一月二四日被告に対し異議申立をしたところ、被告は同年四月一一日付でこれを棄却する決定をしたが、原告は更にこれを不服として同年五月一一日東京国税局長に対し審査請求をしたところ、昭和四三年一〇月二九日付で所得金額を金五五九万六、九九四円と(前記更正処分の一部取消)する旨の判決を受けた。
(二) しかしながら、本件係争年分の所得金額は、金一四七万五、〇〇〇円(確定申告では金一五七万五、〇〇〇円と申告したが、正しくは右金額)であるから、被告の前記更正処分中、右金額をこえる部分は、後記のとおり、別紙物件目録記載の各不動産(以下単に本件不動産という)の譲受代金を過少に認定した結果、原告の所得を過大に認定した違法があるから、その取消を求めるため本訴に及ぶ。
二、請求原因に対する被告の答弁
請求原因(一)の事実は認め、同(二)の事実は争う。
三、被告の主張
(一) 原告は本件不動産を昭和三三年に代金一、六五〇万円で他から買入れ、右取得に関して仲介手数料として金五〇万円を支払い、結局合計金一、七〇〇万円を右不動産を取得するに際して支払った。
(二) 原告は昭和三七年一〇月頃、その所有の本件不動産を訴外名浜株式会社に金五、〇〇〇万円で売却し、右譲渡に関し、前記取得費以外の譲渡に要した費用として金二、〇四〇万円を支出した。
(三) 以上の事実を前提に、原告の譲渡所得金額を計算すると、別表のとおり金六三八万五、〇九九円となる。
従って、被告が行った本件更正処分は右所得金額の範囲内である金五五九万六、九九四円であるから何ら違法はない。
四、被告の主張についての原告の答弁等
(一) 被告の主張(一)の事実のうち、仲介手数料が金五〇万円であったことは認めるがその余の事実は否認する。
本件不動産の譲受代金は金一、六五〇万円ではなく金二、六〇〇万円である。
(二) 同(二)の事実は認める。
(三) 同(三)は争う。
被告は本件不動産の譲受代金を金一、六五〇万円と認定して更正処分を行ったものであるが、真実の譲受代金は金二、六〇〇万円であり、仲介手数料の金五〇万円を含めると、その取得費は金二、六五〇万円となり、これを前提として所得金額を算出すると金一四七万五、〇〇〇となる。
第三、当事者が提出し、援用した証拠及びこれに対する相手方の認否
一、原告
(一) 甲第一ないし第二〇号証
(二) 証入大村政美、同李日俊、同鈴木資也(第一、二回)の各証言
(三) 乙第三号証(但、受付印の部分の成立は不知)、第四号証の一ないし三、第六、第一一号証の成立は認め、第一〇号証の一ないし三の原本の存在及び成立はいずれも不知、第一三ないし第一五号証はいずれも公務署印及び銀行印の各部分の成立は認め、その余の部分の成立は不知。その余の乙号各証の成立は不知。
二、被告
(一) 乙第一号証、第二号証の一、二、第三号証、第四号証の一ないし三、第五号証の一、二、第六ないし第九号証、第一〇号証の一ないし三、第一一ないし第一八号証。
(二) 証人松本美三夫、同来住文男、同布施常蔵、同矢口誠、同望月重春、同新庄馨の各証言
(三) 甲第一ないし第四号証、第六ないし第八号証、第一三ないし第一五号証、第一七ないし第二〇号証の成立は認め、第九号証は原本の存在及び成立を認め、その余の甲号各証の成立は不知。
理由
一、請求原因(一)の事実は当事者間に争いがない。
二(一) 原告が昭和三三年に本件不動産を買受けて取得し、右取得に際し、仲介手数料として金五〇万円を支出したこと、また昭和三七年一〇月にこれを代金五、〇〇〇万円で訴外名浜株式会社に売却したこと、右譲渡に際し、譲渡に要した費用として金二、〇四〇万円支出したことは当事者間に争いがない。
(二) 次に成立に争いのない甲第七、第八、第一五号証、第一七ないし第二〇号証、乙第六号証、証人松本美三夫の証言により真正に成立したと認める乙第一号証、証人来住文男の証言により真正に成立したと認める乙第二号証の一、二、証人布施常蔵の証言により真正に成立したと認める乙第五号証の一、二、証人望月重春の証言により真正に成立したと認める乙第七号証、その方式および趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第一二号証、証人新庄馨の証言により真正に成立したと認める乙第一七、第一八号証並びに証人松本美三夫、同来住文男、同布施常蔵、同望月重春、同新庄馨、同鈴木資也(第二回の一部)、李日俊(一部)を総合すると、昭和三八年三月九日ごろ、原告の夫鈴木資也が当時の川崎税務署に出頭して、本件不動産の譲渡所得税について相談した際、同署担当係官松本美三夫に対し、本件不動産は金一、六五〇万円で取得した旨申し立てていたこと、静岡税務署の係官布施常蔵が原告の弟、金成俊の昭和三七年分の一時所得についての調査に関連して、本件不動産の売買の仲介にあたった岩本不動産について本件不動産の売買価格を調査したところ、右岩本不動産は金一、六五〇万円であった旨申し立てたこと、本件不動産のうち、別紙目録記載(一)の土地は、元小笠原恭子の所有名義であったところ、右土地上に同(五)の建物を嶋正次名義で所有していた同人の父母、嶋鉄太郎、同文江が、右小笠原から右建物の敷地である右土地を金一五〇万円位で買い受け、前記岩本不動産に勤務していた吉田栄の仲介で原告の父、三島健一と交渉した結果、右(五)の建物と一緒に、原告に売渡し、昭和三三年一月二七日、土地については中間省略のうえ、いずれも所有権移転登記をなしたものであるが、前記の嶋夫婦に対して支払われた売買代金は金四二五万円であったほか、右嶋夫婦から前記吉田に対して支払われた右売買の仲介手数料は金二〇万円であったこと、別紙物件目録記載(二)の土地、同(三)の土地、同(四)の建物については、右山口達三が前記吉田栄の仲介で、昭和三三年、原告との間で右三物件を原告に売却する合意をなしたが、右のうち登記簿上山口達三名義であった右(三)、(四)の両物件については、右山口は原告との間で右(二)の物件とは別に代金六〇〇万円で原告に売却する旨の売買契約書を作成し、右金六〇〇万円を受領したほか、小笠原恭子名義の右(二)の土地の代金を別に受領しているが、山口が右代金を含めて原告から受領した右三物件の売買代金を資金に充ててアパート二棟を建築し、土地を買った等の費用金額は合計約金一、〇四八万円になること、昭和三三年当時においては、静岡県告示により、宅地建物取引業者がその業務に関して受けることのできる報酬の額は、当該取引の当事者双方につき、取引金額金一〇〇万円以内のものはその一〇〇分の五、金三〇〇万円以内のものの金一〇〇万円をこえる部分はその一〇〇分の四、金三〇〇万円をこえるものの金三〇〇万円をこえる部分はその一〇〇分の三の率により算定した金額以内とするとの定めがなされていたこと、以上の各事実が認められ、右認定に抵触する証人鈴木資也(第一、二回)の証言はにわかに措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
以上認定の事実と前記争いのない事実を総合すると、原告は本件不動産を合計金一、六五〇万円で買受けたことが推認できる。(原告は右不動産を金二、六〇〇万円で一括して山口達三から買受けた旨主張し、証人鈴木資也の証言(第一、二回)、甲第九号証にはこれに添う趣旨の記載があるが、右証言はにわかに措信できず、右甲第九号証は、右証人鈴木の証言(第一、二回)によれば、本件不動産の譲受代金が金二、六〇〇万円であったことを証明するために右譲受の数年後に至って作成されたことが窺われ、その記載内容は前記認定に照らし措信しがたい。)
三、弁論の全趣旨によれば原告は被告の所得金額算出の計算自体は争わないものと認められるところ、本件不動産の譲受価格は上記認定の通り合計金一、六五〇万円であるから、本件更正処分は東京国税局長の裁決により減額修正された限度内においては相当であって、原告主張の所得過大認定の違法は存在しないから、本訴請求は理由がなく棄却すべきものである。
よって訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 日野達蔵 裁判官 吉岡浩 裁判官 野崎惟子)
(別表)
物件目録
(一) 静岡市七間町一六番の一
宅地 二三坪三合三勺(七七・一二平方メートル)
(二) 同町一六番の四
宅地 六八坪(二二四・七九平方メートル)
(三) 静岡市人宿町二丁目四番の一八
宅地 二四坪三勺
(四) 静岡市七間町一六番地の一
家屋番号 二六番の二
木造亜鉛メッキ鋳板葺二階建店舗兼居宅 一棟
床面積 一階 六四坪五勺
二階 三〇坪六合
(五) 同所
家屋番号 二七番
木造木皮葺平家建店舗 一棟
床面積 一四坪三合五勺
(別表)
<省略>